最近、筆者の周りで血液検査の中性脂肪(TG)の値が高くなってきたという話をよく聞きます。
中性脂肪と言う言葉を聞いたことはあると思いますが、本当のところはよく分かっていないと言う人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は中性脂肪(TG)が高い原因や検査を受ける時の注意点、数値が高くなった時の治療方法などを外科医の先生に解説して頂きました。
中性脂肪(TG)とは?
中性脂肪は体を動かすエネルギー源のひとつです。
いくつかあるエネルギー源のうち、まず初めに血液中の糖分が使われ、次に中性脂肪やたんぱく質が使われます。
糖分は1gあたり4kcalのエネルギーを作ることができるのに対し、脂肪は1gで9kcalのエネルギーを作ることができ、貯蔵するエネルギー源として非常に効率がよい物質です。
このエネルギー源としての役割の他に、細胞膜やホルモンの材料として使われることや、外気から体を守ることや、骨や内臓を守るクッションとしての機能があります。
このように、中性脂肪は人間の体にとって必要なものなのです。
そもそも中性脂肪とは、体内にある脂肪の一種で、3つの脂肪酸(酸性)とグリセロールが結びついて中性を示すので“中性脂肪”と言われます。
英語ではトリアシルグリセロール(triacylglycerol、もしくはトリグリセリド triglyceride)と呼ばれ、採血検査では「TG」と略されます。
(厳密にはTGの9割がトリアシルグリセロールで、残りはモノあるいはジアシルグリセロールです。)
脂肪、脂質、コレステロール、LDL、HDL、中性脂肪、など、いろいろな用語がありますが、それぞれを正しく理解している人はあまり多くありません。
一般的に「脂肪分」と呼ばれるものは、医学的には脂質といいます。
脂質の中には細かい分類がありますが、分かりやすく分けるとその多くは、中性脂肪やコレステロールです。
また、脂質は一般に、水に溶けません。
その脂質を、血液を介して運ぶには、「リポたんぱく」とよばれる特殊なたんぱく質とくっついて動く必要があり、さらにそのリポたんぱくは、その組成に応じていくつか種類があります。
では、どのようにして脂質が増えるのでしょうか?
中性脂肪が増える経路は?
脂質が体内に増える経路としては、大きく分けて2つあります。
1つは、食事です。
もう1つは、体内の工場である肝臓で合成される場合です。
食事から摂取した脂質はカイロミクロンというリポたんぱくによって肝臓に運ばれます。
そして肝臓から末梢の組織へは、VLDL、IDL、LDLといったリポたんぱくによって運ばれます。
反対に、末梢の組織から脂質を回収してくるのがHDLというリポたんぱくです。
脂質が血液中にあると、血管壁に付着し(いわゆるどろどろの血液の状態となり)、動脈硬化が進行します。
つまり、LDLが高値でHDLが低値といった状態は、末梢組織にとっては脂質が供給過剰の状態なのです。だからといって肝臓で貯蓄が過剰になると、いわゆる脂肪肝とよばれる状態になります。
そうして余った脂質のゴミ捨て場が、皮下脂肪や内臓脂肪となり、太っていくのです。
中性脂肪(TG)が高くなる原因について
中性脂肪が高くなる原因として、【過食】と【運動不足】があげられます。
食べ過ぎや運動不足で、余ったエネルギーは中性脂肪に変換され、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織に蓄えられます。
【アルコール】は、中性脂肪を分解する酵素の働きを低下させる作用があり、中性脂肪値が高くなる原因のひとつと考えられています。
また、お酒を飲むとつい食べ過ぎてしまうことも、中性脂肪を増やすことにつながります。
基準値より高い場合
中性脂肪の基準値は、50~149mg/dl(空腹時)です。
この空腹時とは、(10-)12時間以上の絶食を意味します。(空腹時血糖の空腹とは食後10時間以上のことをいいます)。
中性脂肪は食後の変動が大きく、食後2-4時間で最大となり、通常は約7時間で戻ります。
高脂肪食では食前値まで戻るのに、14時間以上を要します。
ちなみに、食事で中性脂肪を5gとると血中の中性脂肪は100mg/dL上昇する計算となります。
- 150~299 軽度
- 境界域とされ、食事療法と運動療法をまず試みることになります。
- 300~749 中等度
- 食事療法、運動療法を確実に行い、他の危険因子があれば投薬を検討します。
- 500mg/dl以上の人は禁酒をしないと危険です。
- 750以上 高度
- 薬物治療が必要となります。膵炎の危険性があるため、特に1000以上の場合は、速やかな治療が必要です。
中性脂肪が高いと血液がどろどろの状態になり、血管が詰まりやすくなります。
また、血管が硬くなり、動脈硬化と呼ばれる状態になります。
心臓の血管が動脈硬化を起こせば、狭心症や心筋梗塞につながりますし、脳の血管が動脈硬化を起こせば、脳梗塞や脳出血を引き起こします。
恐ろしいことに、血液がどろどろの状態であっても、自覚症状はほとんどありません。現在、潜在患者を含めると日本で3000万人以上が該当すると言われています。
中性脂肪だけが高い時
他のコレステロールは正常だけど、「中性脂肪だけ高かった」そんな時には前日の食事時間や飲酒をしていなかったかどうかを確認しましょう。
先にも述べた通り、中性脂肪を測定する際には最後の食事から12時間はあけなければなりません。
また、食事をしていなくても、ジュースや缶コーヒーにも、糖質や脂質が含まれています。
採血までにきっかり12時間あけたとしても、それまで飲酒していたり脂肪分の多い食事をしたりしていては、本来より高めに出てしまうこともあります。
※中性脂肪以外の脂質の項目、例えばT-CHO、HDL、LDLなどは前日の食事の影響は受けません。
治療方法や生活習慣やなど
中性脂肪値が高い人は、まず、生活習慣を改善する必要があります。
具体的には、
- 飲酒している人は、禁酒か、節酒
- 肥満や運動不足の人は、運動する習慣をつける
- 脂肪や炭水化物の多い食事は控える
などです。
数ヶ月~半年程度の食事療法・運動療法による治療と経過観察を経て、それでも目立った改善が見られない場合に、はじめて投薬治療へと進むのが、一般的です。
代表的な脂質異常症の治療薬としては、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版によれば、大きく分けて下記7種類があります。
脂質の取り込みを阻害したり、合成を阻害したり、分解を助けたり、リポたんぱくやその受容体に働くことで、血液中の脂質を下げようとするものです。
脂質異常症の治療薬
●HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)●フィブラート系薬●EPA(イコサペント酸エチル)製剤
- 小腸トランスポーター阻害薬
- プロブコール
- 陰イオン交換樹脂
- ニコチン酸誘導体
特に最近多く用いられるのが、上の3つです。
どの薬剤が適しているかは、脂質異常症のタイプによって異なります。
脂質異常症の薬は時に重篤な副作用を起こすことがあり、きちんと医師の診断を受け服薬することが必要です。
検査を受ける前の注意点など
- 前日の夕食は、遅くとも20時までに済ませておく。
- 食事後は絶食。水や糖分の入っていない飲み物はOK。
- 前日はお酒を飲まない。脂肪の多い食事は避ける。
患者さんの中には、「脂質をとらなければ食事をとってもいいですか?」と質問される方がいます。答えは、NOです。
なぜでしょうか。
それは、肝臓は炭水化物(糖分)からでも脂質が合成できるからです。
また、反対に脂質から糖を作ることもできます。
人間にとって最も大切なエネルギー源は糖分です。糖分が無いと頭や筋肉が動かせず、命が保てません。
その糖分を欠かすことなく全身に供給するため、いつでも糖と交換でき、なおかつ貯蔵効率のよい脂質は、体のエネルギー出納の安全弁として機能しているのです。
まとめ
脂質異常症はSilent Disease(沈黙の病気)のひとつであり、自覚症状が少ないためにいつのまにか進行し、重大な病気を引き起こします。
中性脂肪値が高い人の大半は、肥満や食べ過ぎ、運動不足、飲酒によるものです。
この状態が続くと、動脈硬化がすすみ、心筋梗塞、脳血管障害などのリスクが高まる為、
自ら意識して中性脂肪をコントロールすることは大切です。
中性脂肪をコントロールするには、バランスの良い食事、8分目、適度な運動を心がける。
アルコールは飲み過ぎないことと、週に2日は休肝日を設ける。そうしたことが何よりまず大切です。
総合病院で外科医として勤務する傍ら、正しい医療情報を広めることをライフワークとし、執筆・講演活動等を行っています。
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