健康診断の血液検査でγ-GT(γ-GTP)の数値が高い場合の原因は何でしょうか?
今まで、基準値だったので気にしていなかった項目でも、数値が高くなると、どうしてなのかと悩みますよね。
γ-GT(γ-GTP)について内科医の先生に解説して頂きました。
γ-GTが高いと「お酒を飲み過ぎているんじゃないの?」とよく聞かれます。
ですから、逆に健康診断などでγ-GTが高いと言われても、「お酒を減らせば下がるでしょ。」と放置しがちです。(そういいながらお酒を減らさず、翌年の検診でまたひっかかったりもします。)
確かにγ-GTはアルコールをよく飲む人が上がりますが、実は原因はそれだけではありません。そして、お酒を減らせずγ-GTが高いままの人、実はγ-GTが高いとある心臓の病気になりやすいという報告があるのをご存知ですか?
症状がないからといって放置せず、γ-GTについて勉強しましょう。
γ-GTとは?
γ-GTは「ガンマ・ジー・ティー」と読みます。病院によってはγ-GTPと記載されていることもあります。
このγ-GTはγ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-glutamyltransferase)を略したものです。
腎臓に最も多く、次いで膵臓や肝臓に存在していますが、血液検査でγ-GTの異常値が出たときのほとんどは肝臓が原因です。
γ-GTは肝臓内では肝細胞内のミクロソーム分画や細胆管、毛細血管などに存在しています。
そしてγ-GTは酵素として働き、グルタチオンの一部を変換したり、グルタチオンを分解したりします。
このグルタチオンは有毒な物質を解毒し、活性酸素を減らし、傷ついた細胞を修復するといった重要な役割を担っており、細胞の自己防衛に大きく関与する物質です。
もしグルタチオンが減少すると細胞の酸化ストレスが増加してしまいます。
γ-GTはこの細胞にとって重要なグルタチオンの調節を行う、ほぼ唯一の酵素と言われています。
γ-GTの数値について
γ-GTの正常値には個人差があります。なぜなら年齢や性別、飲酒歴が大きく影響するからです。
年齢との関連では乳幼児期はγ-GTが高く、その後減り、思春期の頃成人と同じ値になります。
性別では男性の方が女性よりもγ-GTが高いことが多く、施設によっては男女で異なる基準値を設定しているところもあります。
男性が女性より高めである理由は、男性の方が女性よりもアルコールを摂取するからといわれていますが、実はそうではありません。
1つは女性に無く男性にある前立腺からもγ-GTが分泌されているためです。
もう1つは女性ホルモンにはγ-GTを低下させる働きがあるからです。
そのため女性ホルモンが最も出ている分娩直前ではγ-GTは妊娠前の半分程度になると言われています。
γ-GTはどうして増える?
本来肝臓中にあるγ-GTが血液中に増加する機序は2つあります。
1つはγ-GTが胆汁に排泄されるところに障害が出た場合です。
胆汁とは肝臓で作られる消化液です。
この消化液は胆管という管を通って、十二指腸に排出されます。胆のうはこの消化液を溜めておくために胆管の途中に作られた袋です。
つまり胆汁は肝臓で作られ、胆管を通ってそのまま十二指腸に消化液として排出されたり、食事をしていないときなどは胆のうに一旦溜められたりします。
この胆汁の中にγ-GTが含まれています。
胆汁の排泄に障害が出るというのは、この胆管が詰まった状態です。
例えば胆管癌ができれば胆管の中が閉塞し、十二指腸に出せなくなった胆汁は肝臓に逆流します。
すると肝臓内の胆汁の量が急激に増え、血液中に胆汁の成分が入り込んでしまいます。
肝臓が悪くなると黄疸といって皮膚が黄色くなることがありますが、これは同じ胆汁に含まれているビリルビンという黄色い成分が血液中に入り込んだ状態です。
そのため胆汁排泄障害があるとγ-GTだけでなく、ビリルビンなど本来胆汁に含まれる成分も血液中に増加します。
もう1つの機序は、肝細胞が傷害を受けてγ-GTが過剰に作られる場合です。
前述したようにγ-GTは細胞の自己防衛に関わるグルタチオンに関わる酵素です。
そのためアルコールの過剰摂取や薬の摂取により肝臓の細胞に負担がかかると、細胞を守るためγ-GTが増加しグルタチオンが効率よく働くのを助けます。
γ-GTが増加する病気
では、γ-GTが増える機序から具体的な肝臓の病名を挙げます。
胆汁排泄障害が起きる病気
胆管癌:胆管は胆汁の通り道です。胆管に癌ができると胆汁の通りが悪くなります。
総胆管結石
総胆管とは胆管の一部の名称で、肝臓と十二指腸をつなぐ部分です。途中に胆のうがくっついています。
胆石は胆のうの袋の中にできた石ですが、この胆石が総胆管に転がり落ちたり、初めから総胆管内に胆汁の固まった石ができると総胆管結石になります。
この石は総胆管内を転がっていますが、途中に引っかかったり、出口に詰まると胆汁が肝臓に逆流します。
原発性胆汁性肝硬変(PBC)
肝臓内にある肉眼では見えないほど細かな胆管が壊れる病気です。
自己免疫性疾患の一種で、体内に誤って自分を攻撃してしまう成分が生まれます。
PBCの場合は抗ミトコンドリア抗体が検出されます。
肝癌
肝臓の癌です。
癌により胆管が圧迫されます。
肝膿瘍
肝臓に病原体が感染し、膿の塊を作った状態です。肝癌と同様に膿の塊が胆管を圧迫します。
膵臓疾患
胆管の近くには膵臓があります。特に膵臓の頭の部分は胆管に近く、この部分が腫れるような病気(膵癌や膵炎など)では胆汁の通過障害がおきます。
肝細胞が傷害を受ける病気
アルコール性肝障害
アルコールの摂取により肝細胞に障害を受けます。
肝炎
代表的な病気はウイルス性肝炎です。
多いのはB型肝炎、C型肝炎ウイルスです。
昔は予防接種や輸血で感染することもありましたが、最近の感染原因はきちんと消毒されていない器具を用いたタトゥーや性交渉です。
感染して早期に発熱・食欲不振などの症状が出る急性肝炎の場合や、感染してもほぼ無症状で経過して数年から何十年たって血液検査・画像検査で判明する慢性肝炎があります。
肝硬変
慢性肝炎が長くなると肝臓の細胞が減り、線維成分に変わった状態です。
肝細胞が壊れて線維に置き換わっている最中は肝臓の数値が増えていますが、肝硬変が完成してしまうと壊れる肝細胞がほとんどないため血液検査での肝臓の数値は正常であることもあります。
この場合はCT等の画像検査で診断します。
薬剤性
薬が原因で肝臓の細胞に障害をうけるとγ-GTが増加します。
睡眠薬の一部や向精神薬で増加しやすいと考えられますが、個人と薬の相性でどの薬であってもγ-GTが増加する可能性はあります。
以上、代表的な機序で分類しましたが、厳密には両方の機序が重なって現れているものもあります。
例えば肝癌の場合、肝細胞が癌の侵食によって破壊されつつ周りの胆管を圧迫しています。
また胆汁の排泄障害が進めば肝細胞が破壊されて両方の機序が同時に見られます。
非肝臓疾患では心筋梗塞・糖尿病・甲状腺機能亢進症・関節リウマチなどで上昇することがあると報告されていますが、この場合γ-GTだけで診断することはなく、その病気に特有の検査を行って診断します。
γ-GTが高かったら、どう考える?
無症状でγ-GTが高かった時にはまず、アルコールが原因でないかと考えます。
そのため病院では1日にどのくらいのアルコールを摂取しているか、1週間に何日摂取するか、何歳から何年間摂取しているかなど質問されます。
これはその後の肝疾患の診断に重要ですので、正確に答えましょう。
例「飲むときには日本酒を2合、1週間に3回ほど飲みます。30歳ころから20年間続いています。」
「宴会の時にはビールを大瓶で2本ほど飲みますが、自宅では飲みません。」
アルコールが体内でどのように影響するかは個人差が大きいため、他の人よりも少ないからといって問題がないとは限りません。
他の血液検査や画像検査で早急な治療を要する肝癌や急性肝炎などが否定され、アルコール摂取によるγ-GT増加が最も考えられる場合は、まず禁酒して数値が下がるかを見ます。
実際にアルコール性肝障害の診断基準には、禁酒によりγ-GTが4週間で前値の40%以下、もしくは正常値の1.5倍以下に低下するという項目があります。
アルコールが原因と判明したら禁酒(もしくは節酒)を継続しながら、1-3か月程度の間隔で血液検査を行い経過をみます。
アルコールを全く摂取していなかったり、禁酒により数値が改善しない場合は他の病気を考えて追加検査を行います。
肝臓に関連した血液検査:AST・ALT・ALPなど
画像検査:腹部超音波検査もしくは腹部CT
を行うのが一般的です。
γ-GT豆知識
1.γ-GTが上昇していると、虚血性心疾患になりやすいのではないかと考えられています。
γ-GTが高いということは、グルタチオンを増やして細胞を守らなければいけない状態がある、ということを意味しています。
グルタチオンの作用の1つに抗酸化作用があります。
つまり抗酸化作用を活発にしなければいけない状態ということは、細胞の酸化が進んでいるということを表している可能性があります。
細胞が酸化すれば細胞の老化や動脈硬化が進みます。
虚血性心疾患は、心臓の血管が動脈硬化により血流の流れが悪くなり、狭心症や心筋梗塞になるということです。
γ-GTの増加が続くということは、全身の動脈硬化が進んでいることを反映している可能性があります。
2.抗癌剤が効かない癌細胞の一部には、γ-GTが出現しているのではないかと考えられています。
本来は体を守るためにγ-GTがグルタチオンを調整して、有毒な物質を無毒化しているのですが、この癌細胞はその働きを利用して、抗癌剤を癌細胞の中で無毒化(無効化)しているのではないか、と考えられているのです。
そのため癌の治療方法として、このγ-GTを持つ癌細胞に対し、抗γ-GT製剤といった薬が考えられています。
最後に
いかがでしょうか?
γ-GTは肝臓の検査として行われる検査ですが、実は体の中で重要な役割をしており、また肝臓以外の病気とも関連しているのです。
いつまでもγ-GTが下がらない場合は、一度病院を受診してきちんと検査を受けましょう。
<ライター経歴プロフィール>春田 萌(ペンネーム)
関東の総合病院に勤務する40歳代、一般内科医師です。外来で患者様によく質問されることなどを織り交ぜて、わかりやすい説明をさせていただきます。
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