毎年、健康診断を受けていて、いつもと違う結果が出たりすると気になりますよね。
特に体の異常が感じられないのに、数値が高いとなぜなの?と思うのではないでしょうか。
今回は血液検査でBUN(尿素窒素)が高いと言う結果が出たら、何が原因でどんな病気が考えられるか、また改善方法などについて、循環器内科医の鷲尾先生に解説して頂きました。
まずはじめに原因から見てみましょう。
BUNが基準値より高い原因と病気について
BUN(尿素窒素)とは何?
BUN(ビーユーエヌ)はBlood Urea Nitrogenの略で、日本語では「血清尿素窒素」と呼ばれており、血液検査で分かります。
では、BUN(血清尿素窒素)とは、いったい体にとってどういうものなのでしょうか?
皆様が食事を摂られて、重要な栄養素の一つであるタンパク質を体内に吸収します。
そのたんぱく質は、分解されるとアンモニアになりますが、実はこのアンモニアは人体とってとても有毒なものなのです。
ですので、この有害なアンモニアを肝臓で代謝し無毒な尿素に変えて、血液の中を移動し腎臓へ行き、そこで尿中に排泄するのです。
尿素は、体外へ排泄される窒素量のおよそ80~90%を占めると言われています。
簡単に言うと、体内でタンパク質を使い終わった時に発生する物質がBUN(尿素窒素)です。食事としてとったタンパク質は体内で代謝され、最終的に尿素となり腎臓から尿として排泄されているのです。
ですから、この流れの中のどこかで異常をきたせば、検査で「BUN(尿素窒素)が異常値ですよ」と、指摘されるということです。
注)ここで「尿素」と{尿素窒素」の2つの言葉を同じものかのように使っていますが、厳密にいえば違います。血中では「尿素」、検査では「尿素窒素」を測定しています。測定した尿素窒素を計算(分子量が違うため)すると尿素の値が出てきますので、ここでは同じものとして表現をしています。
BUN(尿素窒素)高くなる原因は?
検査値を見るにあたり、まず正常値を知る必要があります。
BUNの正常値は 8~22mg/dl です。(年齢、性別等により若干変動があります。)
この値より高ければ、高値ということです。
では、高値になる原因は何でしょうか?
先ほどお伝えしたように、タンパク質が吸収され尿として排泄されるまでの経過で異常があれば、高値(または低値)になります。
高値となる原因・病気には、脱水、甲状腺機能亢進症や腎障害などいろいろありますので、少し整理してご説明していこうと思います。
BUNが高い時の病気について
BUN高値の原因となる病気を分かりやすくするために、腎臓を基準にして、腎前性・腎性・腎後性に分けてお伝えします。
ちょっと難しいと思うかもしれませんが、BUNは腎機能の指標の一つとして大きな役割をしている事と、腎臓の前後でその原因機序が大きく違ってくるからです。
ではまず、腎前性に原因がある場合をご説明します。
腎前性に原因がある場合
蛋白の吸収と代謝に関わるところに異常があるものが、これに当たります。
例えば、尿素のもとになっているタンパク質の摂りすぎで高値になる場合があります。
お肉などのタンパク質を中心にして大量に食事として摂ると、BUNは上昇します。
最近、よく耳にする糖質制限ダイエットもタンパク質の過剰摂取になりかねません。
本来、食事は糖質・タンパク質・脂質をバランスよくとる必要があります。
しかし、糖質を抜いてしまうことにより、タンパク質の量が過剰になることもあるので、腎機能が悪い人などは注意が必要です。
また、消化管出血も原因の一つです。
消化管出血が起こることで体の血液が減り、腎臓への血流量が減るため、体内に水分や栄養分を残そうという動きが働き、腎臓の近位尿細管での水分やBUN(尿素窒素)や他の物質の再吸収が増え、血中BUN(尿素窒素)が上昇します。
そして、長期的な消化管出血の場合は、血液もタンパク質を含んでいますので、出血からの血液も消化管から吸収されることによってBUNが上昇する可能性があります。
他には、甲状腺機能亢進症のような病気では、代謝が活発になり、タンパク質の異化(タンパク質などの有機物質を分解すること)の亢進により尿素がたくさん作られ、結果、BUN(尿素窒素)が上昇します。
次に、腎性が原因の病気はどうでしょうか?
腎性に原因がある場合
急性、慢性の腎炎・糸球体腎炎や腎臓がんなど、腎臓がダメージを受けることによりBUN(尿素窒素)が高値となります。
腎臓には糸球体と言って、血液中の老廃物を尿として排泄し、血液には必要な栄養素などを残すと言う「ろ過機能」があります。
腎臓に障害が起こるということは、このろ過装置である糸球体がダメージを受けている事ですので、BUN(尿素窒素)が尿中に排泄されずに血液内に残り、血中BUN(尿素窒素)が上昇するのです。
最後に、腎後性に原因がある病気についてです。
腎後性に原因がある場合
腎臓より末梢である尿管や膀胱に問題がある場合です。
具体的に言えば、腎結石、尿管結石、膀胱がんなどがそれにあたります。
尿が体内から排泄されにくいため、尿が停滞し結果的にBUN(尿素窒素)が血液中に残ってしまい、BUN(尿素窒素)の上昇が起こります。
今まで説明をしましたが、以下の表にいくつかの病気を挙げていますので、ご参考にして下さい。
BUN(尿素窒素) 高値で疑う病気
BUN(尿素窒素) 高値で疑う病気 | ||
---|---|---|
原因機序 | 病気 | |
腎前性 | ・タンパク質の過剰摂取 | 体調による一時的変化(脱水等) |
・タンパク質の過剰摂取 ・タンパク質の異化亢進 ・腎血流量の減少 ・尿素の再吸収亢進 | 遺伝による影響 加齢による影響 消化管出血 腸閉塞 腹膜炎 糖尿病 高血圧症 など |
|
腎性 | 腎臓の糸球体からの尿素のろ過・排泄障害 | 急性腎炎 慢性腎炎 腎盂腎炎 腎不全 腎硬化症 腎がん など |
腎後性 | 尿路からの尿路排泄障害 | 尿管結石などの尿路閉塞 前立腺癌 など |
では、BUN(尿素窒素)の高値の時の症状はどうでしょうか?
BUN(尿素窒素)が高いの時の症状
軽度の場合であると症状がほとんどない事が多く、この場合の症状としてはBUN(尿素窒素)高値による症状というよりも、その原因になっている疾患の症状が出てきます。
例えば、腎障害でBUN(尿素窒素)高値となっている場合は、むくみや倦怠感、食欲不振などの症状が出てきます。
消化管出血であれば、立ちくらみや息切れ、易疲労感などが出てくるということです。
また、腎機能不全(腎不全)によるBUN(尿素窒素)値の高度上昇では、尿毒症という病気の症状が出てきます。
尿毒症というのは、体の老廃物として尿から排出すべき物質が排泄できずに体内に残り、様々な症状を出す病気です。
初期症状としては、疲労感、倦怠感、思考力低下、浮腫、悪心・嘔吐などの消化器症状、体重減少などが出現し、ひどくなるとけいれんや意識障害も起こり、生死にもかかわってきます。
BUN(尿素窒素)の数値が高い時の治療方法
BUN(尿素窒素)の高値がでたら、その原因となる病気の治療を行います。
ただ、BUN(尿素窒素)だけの検査では、原因は明らかになりませんので、精査を行います。
最初に腎機能を簡単に見るためには、BUN(尿素窒素)と一緒にCr(クレアチニン)という検査もしていると思います。
この2つで腎機能の評価をし、悪ければ尿検査等を行っていきます。
腎障害があれば、それに対する治療を行います。
例えば、急性感染性腎炎であったら、感染が原因ですので、それを治療するために抗生剤を投与します。
慢性腎炎では、なかなか元に戻ることは難しく、それ以上悪くならないように蛋白を制限する食事療法を行い、それと同時に慢性腎炎に落ちいった原因の病気(糖尿病など)も治療を行います。
腎障害がなければ、他の原因を検索し病気を特定して、それに対して治療を行います。
例えば、脱水症でBUN(尿素窒素)の上昇があれば、体内への水分補給を行い改善します。
採血で貧血、便潜血陽性があれば、消化管出血を疑い消化管内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)を行い、出血源を見つけ、それが胃潰瘍ならばその治療を行います。
最後に
このように、BUN(尿素窒素)という一つの検査でも、異常があると軽い病気から癌などの恐ろしい病気まで様々な可能性が考えられます。
健康診断の結果で少しでも異常値があれば、精査して原因を検索していく事が、将来癌などの初期治療に結びつきます。
そうすることによって、治療の負担も減りますので、是非検査で異常値を指摘されたときは、再検査・精密検査を受けるように心がけて下さい。
<ライター経歴プロフィール>鷲尾 美香
20年程、循環器内科、総合診療科医として日本で勤務医として働かせて頂き、また海外の医療搬送のお仕事もさせて頂いております。そのため、日本国内だけでなく海外の医療現場にも関わり、沢山のことをさせて頂いています。現在、主人の仕事の関係で海外に拠点を置いておりますが、日本と行ったり来たりで医療に携わっております。また、産業医としてのお仕事をさせて頂き、検診や外来診察もさせて頂いた経験から、検診の重要性を感じております。
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