CKが高い、CKが低いと言われたら心配ですね。
でも、結論を先に言うと、症状のないCKだけの異常値は治療のいらないことが多いです。
ですが、なんで上がったのか、どうして低いのか、この理由を知って安心し納得することは自分の体調管理のためにも重要です。
気になっている今が学習のチャンスです。
CKとは何?についてかみ砕いて説明していきます。
CKをはかるのはこんな時
CKの検査は、簡易の健康診断では含まれていないことが多いです。
理由としてはCKが異常値になる病気の多くは、自覚症状があることが多いため、健康診断ではなく、病院を受診して検査を受けることが想定されるからです。
CKはその値だけで診断できる病気が少ないこと、心臓疾患の診断には心電図の方が検査として優れているといった理由もあり、検査の数が限られた健康診断ではCKは含まれないことが多いです。
一方、採血項目の多い健康診断や人間ドックなどでは、ほとんどCKが検査項目に含まれています。
この場合も、CKの数値だけで病気を診断するというよりも、「普段のCKの値を知っておく」といった意味合いが強いでしょう。
では、病院を受診してCKを測定されたら、何を疑われているのでしょうか。
そのほとんどは筋肉の障害です。
後述しますが、外傷や内臓疾患で筋肉が破壊されている可能性がある場合に、どのくらい筋肉がダメージを受けているかを推測できます。
また、心臓疾患の場合は、病気の時間経過や心筋の損傷の程度を見ることもあります。
では、そもそもCKとは何なのかをお伝えします。
CKとは?
CKはクレアチンキナーゼ(Creatine Kinase)の略称です。
病院によってはCPK(クレアチンホスホキナーゼ:Creatine Phosphokinase)と表記されていることもありますが、基本的に同じものです。
このCKは、クレアチンリン酸とADPから、クレアチンとATPへ変換する酵素です。
クレアチンリン酸は、エネルギーを筋肉に蓄える役目をしています。
全力で走るなど急激な運動の時には、クレアチンリン酸が変換されてATPが生まれ、さらにATPが分解されるとエネルギーが発生し、そのエネルギーで筋肉は動きます。
CKは骨格筋・心筋・平滑筋・脳などに多く含まれていますが、体を動かす骨格筋に最も多く含まれており、CKの異常は筋肉に関連したものが多いです。
CKのアイソザイムとサブユニット
CKは2個のサブユニットと呼ばれるものがくっついた形をしています。
このサブユニットにはMサブユニットとBサブユニットがあります。
Mは筋肉(Muscle)の意味で筋肉に多くみられ、Bは脳(Brain)の意味で脳に多く存在しているものです。
CKにはMサブユニットが2個くっついたCK-MM、Bサブユニットが2個くっついたCK-BB、1個がMサブユニットでもう1つがBサブユニットであるCK-MBの3種類があります。
CK-MM、CK-BB、CK-MBはアイソザイムと呼ばれます。
CKのアイソザイムを測定すると言われたときは、CKのどのアイソザイムが異常値なのか、細かい種類の量を測定するということを意味しています。
実際にCK-MMは骨格筋、CK-BBは脳に多く存在しています。
そして、両方のサブユニットを併せ持ったCK-MBは心臓に多く存在し、どのアイソザイムが増えているかで、どの部分の病気が疑わしいかを推測することができます。
それぞれの臓器に含まれているCKのアイソザイム
- 骨格筋(CK-MM:ほぼ100%)
- 脳(CK-BB:100%)
- 心筋(CK-MM:80%、CK-MB:20%)
- (特殊な病気では、その他にミトコンドリア由来のCKや免疫グロブリン結合型のCKというものが測定されることもあります。)
血液検査で測られるCKの意味
正常の人が血液検査で測られるCKのほとんどはCK-MMで、97-100%を占めています。
CK-BBはほとんど認められず、心臓から放出されるCK-MBは病気がなければ0-3%程度しかありません。
このCKの測定方法は、比色法やUV法など複数の測定方法があります。また、アイソザイムは電気泳動法という方法で検出します。
測定の方法によって、正常の目安となる基準値が異なるため注意が必要です。
そしてCKは年齢や性別でも基準値が異なります。
CKの大部分が筋肉由来であることから、一般的に筋肉量の多い男性の方が女性よりも約1.5倍高く出ます。
男性では年齢での変化はあまりありませんが、女性は加齢や妊娠により低くなり、閉経すると上昇します。
また、寝たきりの患者の場合は低下していることが多いです。
そのためCKの値を他の人と比較することは意味がなく、同じ人の数値の変動をみることが病気の早期発見に重要です。
病気ではないのにCKが高く出る場合
日常生活でもっともCKの値に影響が出るのは運動です。
軽い運動でもCKの値は数倍に増加し、数日間その影響が残ることもあります。
マラソンでは正常の100倍になることもあります。
子どもの場合は、採血の時に大泣きするだけでも増加することがあります。
また、筋肉に注射を行うとCKの値が高くなることもあります。
その他に実際体の中にはCKは増えていないのに、採血結果で数値が高く出ることがあります。
採血の時に血液がなかなか出てこなかったり、時間がかかったり、勢いよく採取すると血液が壊れて溶血という状態になります。
すると、赤血球が壊れて赤血球内に含まれているAdenylate kinaseという物質が放出されて測定結果に影響を与え、CKが高くなります。
この場合は、溶血しないように正しく採血した血液で、再検査を行えば正常値になります。
CKが異常高値であった場合どうするか
原因が何であれ、CKが20000を越えると、筋肉が大量に破壊されていることが推測され、CK以外の筋成分も増加していると考えられます。
特に筋肉中のミオグロビンが、血液中に増加すると急性腎不全を起こすことがあり、入院・点滴・場合によっては透析が必要なこともあります。
それほどCKが高くなくても1000を越える場合には、その後増えていかないか頻回に血液検査を繰り返して経過をみたり、原因となる病気がないかの検査を始めます。
CKが1000を越えない程度で特に症状がない場合や、前日に運動をしているなどCKが上がる原因が病気以外にあるような場合は、そのまま様子をみることもあります。
では、CKの異常値と病気について見てみましょう。
その臓器の損傷によって血中にあるアイソザイムのCKが増加します。
①CK-MMが高くなる病気
CK-MMは筋肉に多いため筋肉に関連した病気がほとんどです。
筋ジストロフィー
ゆっくりと筋力が低下し、食べ物が飲みこみにくくなったり、まぶたが持ち上がりにくい、顔の表情が乏しくなるといった症状が現れます。
遺伝疾患のため家族・親戚に筋ジストロフィーと診断された人がいることが多いです。
この筋ジストロフィーはさらに細かい分類があり、発症の年齢や症状にいろいろな幅があります。
また、病気を発症していなくてもDuchenne型筋ジストロフィーの遺伝子を持った女性はCKが高くなることがあります。
多発性筋炎
自分の身体の中で自分の細胞を攻撃してしまう成分が作られる膠原病の1種。
大きな筋肉から左右対称に筋肉痛・体力低下がゆっくりとおきます。
30-50歳の女性に多く、10万人に2-5人程度が発症します。
皮膚筋炎
多発性筋炎同様、膠原病の1種です。
多発性筋炎と同じ筋肉の症状に加え、手指の関節の手の甲側や肘・膝の外側に、盛り上がって乾いた赤い発疹やまぶたに腫れたような赤い斑などの皮膚症状があることが特徴です。
横紋筋融解症
横紋筋という種類の筋肉が溶けたり壊れる病気の総称。
筋肉にはその構造から横紋筋・平滑筋・心筋があります。
横紋筋は主に体を動かすための筋肉で、内臓を動かしているのが平滑筋です。
横紋筋融解症の主な原因
- 1)挫滅(クラッシュ)症候群:事故などで身体が車や建物の下敷きになったり、機械に挟まれて筋肉が長時間圧迫された状態です。
- 2)熱射病:熱中症のうちの1つで、高温多湿の状態に長時間いたときに発症します。体温が40℃をこえると筋肉は変性して発症します。
- 3)けいれん:筋肉が勝手に収縮をくりかえす状態です。足がつる程度のものから、複数の筋肉がけいれんする全身性けいれんがあります。
- けいれんの原因には運動のしすぎや電解質(ナトリウムやカルシウムなど)の異常、脳疾患やてんかん、破傷風などがあります。
- 4)薬の副作用:高脂血症治療薬、抗生剤(ニューキノロン系)、抗精神病薬などが原因となることがあります。アルコール依存も原因になります。
横紋筋融解症は日常生活でも起きることがあります。軽度の場合は自覚症状がないこともあります。
甲状腺機能低下症
甲状腺は体の代謝を上げるホルモンです。
このホルモンの量が減ると、本来処分されるムコ多糖という物質が筋肉に溜まり、CKが増加すると考えられています。
甲状腺機能低下症の他の症状には、腸の動きが低下して便秘になったり、代謝が落ちることで体重が増えたり、脈がゆっくりになったりします。
悪性高熱症の保因者
悪性高熱症とは全身麻酔の最中に高熱を出す疾患です。
筋のカルシウム代謝に異常を及ぼす遺伝が原因と考えられています。
日常生活では特に問題がなく、全身麻酔を行って初めて病気がわかることもあります。
血のつながった人に悪性高熱症の人がいて、普段のCKが高めの人は悪性高熱症の遺伝子を保有している可能性があります。
CK-BBが高くなる病気
CK-BBは脳に多く含まれているため、脳の病気が原因であることが多いです。
しかし、大脳と血管の間には血管脳関門と呼ばれる機能があります。
これは血液中の有害物質が脳に影響を与えないようにするバリアであり、このバリアの働きにより大脳内でCK-BBが増加していても血液中にCK-BBが流れ出ないこともあります。
この場合、血液検査ではCKが正常値のままになります。
また、CK-BBが上昇しても数時間程度と報告されています。
その理由としてCK-BBは血液中では数時間しか存在できないためと考えられています。
頭の手術を受けた際には術後半日程度から上昇し、1-1.5日でピークを迎えた後、1週間後には正常値に戻ります。
実際にはCK-BBだけで、脳の病気を診断できることはほとんどありません。
脳挫傷
頭をぶつけたりして脳の細胞が損傷を受けた状態です。
出血を伴うことが多く、破れた血管からCKが血管内に流れ込み血液検査でCK上昇を認めることがあります。
その他の疾患
ウイルス性髄膜炎や脳血管障害でも上昇することがあります。
悪性腫瘍(前立腺、膀胱、消化器、乳がん、肺癌など)でも機序は不明ですがCKが上昇することがあります。
CK-MBが高くなる病気
CK-MBは心筋由来のため、CK-MBが上昇すれば心臓疾患が疑われます。
心筋梗塞
発作後数時間で上昇し、24時間で最も高くなり、3日後には正常化します。
CKの量を測定することによっていつごろ発症したかを推測することができるとともに、CKが最も多い時の数値によってどのくらいの広さの心筋がダメージを受けたかを推定できます。
その他心疾患
心筋障害など
CKが低くなる病気
- 甲状腺機能亢進症
- 膠原病:慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、・Sjogren症候群(注:oはoウムラウト)などではCKが低下することがあります。その機序としてはCKを阻害する物質の出現、CK分解亢進などが考えられています。
CKが高い時の考え方
無症状でCKが高い場合は水分をしっかり摂り、1週間ほど運動を控えて再検査を受けましょう。
それでCKが基準値内であれば、潜在的な病気はないと考えられます。
もしこの時にも高値であった場合は、まれですが筋肉疾患などを考えて検査を行ったり、経過をみます。
また、薬やサプリメントを服用していたら、CKが増加する原因になっていないか医師に申告して相談しましょう。
CKがわずかに高いからといって、自己診断で薬を中止するのは危険ですからやめましょう。
筋肉の病気は家族に同様の病気があることもあります。
血のつながった人で、筋肉の病気の人がいないか確認しましょう。
CKは1000越えない程度で無症状であれば、すぐに治療が必要な病気であることはまれです。
異常値であるからといって必要以上に不安に感じる必要はありません。
関東の総合病院に勤務する40歳代、一般内科医師です。外来で患者様によく質問されることなどを織り交ぜて、わかりやすい説明をさせていただきます。
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