毎年、健康診断をされる方は多いと思います。
特に問題がなければ、細かく検査項目を見る事は少ないかもしれません。
血液検査の中のクレアチニンと言う項目がありますが、この数値がいつもより高くなっている場合、何が原因なのかと思いますよね。
本日は、クレアチニン(Cr・Cre)の数値が高くなる原因について外科医の先生に解説して頂きました。
では始めに、クレアチニンって何なのかを知って原因を見てみましょう。
クレアチニン(Cr・Cre)とは何の検査?
クレアチニンとは、筋肉に含まれるクレアチンという物質が代謝されてできる物質で、老廃物のひとつです。
検査結果だとCrやCreと略されます。
腎臓が正常に機能していれば、尿として体外に排泄されるため、その血中濃度をみることで腎臓の機能が正常かどうかを把握できます。
基準値は男性0.5-1.1mg/dl、女性0.4-0.8mg/dlであり、これ以上の場合は、腎機能に異常がある可能性があります。
男性と女性の基準値に違いがあるのは、筋肉量の違いによります。
一般的に男性の方が筋肉量は多い為、クレアチニンの値は高くなり、スポーツ選手や欧米人なども筋肉量が多いため、もともと1.0程度である場合も多々あります。
クレアチニンが高くなる3つの原因とは?
腎臓で血液がろ過されると、老廃物であるクレアチニンは尿として排出されます。
しかし、腎臓に何らかの障害があり濾過機能が低下していたり、その後の排管である尿管が閉塞したりしていると、クレアチニンが血液にとどまってしまうため数値が高くなります。
すなわち、血液中のクレアチニンの量が多いということは、腎臓の機能が低下しているということを意味します。
大きく分けて、下記のような3つの原因に分けられます。
体の中の水分の問題(腎前性腎不全)
脱水や心不全など、きちんと腎臓というフィルターに血液が流れないと、有効に濾過されませんので、腎不全になってしまいます。
腎臓自身の問題(腎性腎不全)
腎臓のフィルターそのものやその周囲に異常がおきている状態です。
造影剤などの特殊なお薬を使ってそれが詰まってしまう場合や、自分の免疫がフィルターを異物として認識して攻撃してしまう場合などがあります。
また、フィルターは毛細血管の塊なので、高血圧や糖尿病などの動脈硬化を引き起こす病気でも、障害されることが分かっています。
腎臓から先の排管の問題(腎後性腎不全)
腎臓から先は腎盂・尿管・膀胱とつながっており、尿が流れていきますが、そこが結石や腫瘍等によって閉塞してしまうことがあります。
検査前の運動や脱水で高くなる?
検査前に激しい運動を行うと、筋肉が沢山壊れ、その分クレアチニンが増加します。
また、運動や体調不良で脱水になった場合にも、循環している血液量が減少し、腎臓の濾過装置としての機能がうまく働かなくなり、結果としてクレアチニン値が高くなります。
- 検査数値をより正しい値にするために、検査前1-2日は激しい運動を控えるようにする。
- 脱水状態にならないように、きちんと水分補給をした上で検査をする。
といったことに気を付けましょう。
クレアチニンの数値を上げない予防方法
クレアチニンの値は、一度上がってしまうと元通りに戻らないことが多々あります。
なぜかというと、腎臓というのは毛細血管でできたフィルターですので、一旦水が流れなくなってしまうと目詰まりを起こして次第に使えなくなってしまうのです。
もちろん、短期的に上昇しただけであれば元通りになることもありますが、高血圧や糖尿病などによって慢性的に障害された場合には、なかなか戻りません。
そのため、腎不全の治療においては「これ以上悪くならないようにする」「予防をはかる」といった視点が大切になってきます。
適切な一日の水分量とは?
日常生活でできることとしては、食事と水分摂取です。
食事療法については腎不全の進行具合によって細かく変わってきますので、きちんと栄養指導を受ける必要があります。
水分については、よくテレビや雑誌で、「水をたくさん飲めば健康になる」といった紹介がされていることがありますが、これはある意味正しく、ある意味間違いです。
人によって、水分を飲み過ぎるとむしろ危険な場合があります。かといって、飲水量が少ないと腎機能の悪化につながります。
では、どれくらいの飲水量がほどほどなのでしょうか。
適切な飲水量は人によって異なりますので一概には決められませんが、自分自身がどれくらいの水を飲めばよいのかは、実は尿量をはかることで分かります。
医学的に、体内の不要物を排泄するのに必要な尿量は、1日500mlと言われています。
それを下回ると、どれだけ腎臓が頑張って尿を濃くしてより効率よく不要物を排泄しようと試みても、徐々に体にたまってしまいます。
つまり、少なくとも1日あたり500ml以上の尿量が出るような水分摂取を心がければいいので、概ね1日1000ml程度の尿量が多くの人にとっていいバランスであると覚えて頂ければよいでしょう。
基準値より高いときの検査値の解釈の仕方
腎臓は背中側の左右の肋骨の下に1つずつありますが、両方機能しなくなった場合、人工透析をしないと命を保つことができません。
腎臓の機能が低下することを腎不全といいますが、腎不全を放置すると、不純物と水分がたまって尿毒症や溢水(いっすい)と呼ばれる状態になります。
この尿毒症とは、通常体にたまりすぎると害になる物質がたまっている状態ですので、日常生活を送ることも困難な程度の非常に強い倦怠感が出たり、意識が保てなくなったりします。
また、溢水になるということは全身に水分がたまるということで、高度なむくみ(浮腫)が出たり、肺に水が溜まって呼吸ができない状態になったりします。
その他、カリウムというミネラルの一種がたまりすぎると心臓の電気信号が正常に働かなくなり、突然死することもあります。(腎不全になった場合に、バナナなどのフルーツをとりすぎないように言われるのはこのためです。)
このように腎臓は生命の維持に不可欠な臓器ですから、予備能力が高い臓器でもあります。
通常、例えば腎癌で片方の腎臓をとってしまった場合でも、もともと健康な人であれば実はクレアチニンの数値はほとんど変化しません。
なぜなら、濾過する能力には余力があるため、腎臓が1つだけでも、余分なクレアチニンを排泄することは十分可能だからです。
これはすなわち、ある程度腎不全が進行しないと、血中クレアチニン値の異常としてはあらわれてこないということです。
そのようなことから、より正確に腎機能をみたい場合には、24時間蓄尿をして、Ccr(クレアチニンクリアランス)といって実際の尿量と尿中のクレアチニンの量から補正をして判断する場合や、蓄尿が手間である場合には血中クレアチニン値を年齢・性別で補正したeGFR(推定糸球体濾過量)を用います。
eGFRを計算するには、下記の式等を用います。
例えば、60歳男性を例にとって血清クレアチニン値とeGFRを比較してみましょう。
- 血清クレアチニン値が、0.6の場合・・・eGFRは104.8
- 血清クレアチニン値が、0.8の場合・・・eGFRは76.5
- 血清クレアチニン値が、1.0の場合・・・eGFRは59.9
- 血清クレアチニン値が、1.2の場合・・・eGFRは49.1
- 血清クレアチニン値が、2.0の場合・・・eGFRは28.1
- 血清クレアチニン値が、5.0の場合・・・eGFRは10.3 (※透析導入も検討しうるレベル)
- 血清クレアチニン値が、8.0の場合・・・eGFRは6.2
上記のような計算結果となります。
ここで分かるように、男性のクレアチニンの基準値は0.5-1.1mg/dlです。
正常な場合は80や100といった数値となるeGFRですが、クレアチニン1.2になった際にはすでに49.1と、半分程度に腎機能が落ちてしまっていることが分かります。
診察室で採血結果について説明する際によくある反応として。
「クレアチニン1.2か、ちょっと高いだけじゃないですか」とおっしゃる患者さんがよくいますが、実は腎臓の機能としては半分程度まで低下してしまっているのです。
まとめ
腎臓は物言わぬ臓器と言われ、腎臓に何らかの障害があっても、初期段階では自覚症状がほとんどなく、検査して初めて障害が分かる場合があります。
定期検診(血液検査)で、早期に異常を見つけることが重要で、かつクレアチニンの値はちょっと基準値をこえるとかなり腎不全が進行している状態です。
ですので、異常がある場合にはしっかりと腰を据えて生活の見直しを行いましょう。
<ライター経歴プロフィール>しゅうぴん先生(ペンネーム)
総合病院で外科医として勤務する傍ら、正しい医療情報を広めることをライフワークとし、執筆・講演活動等を行っています。
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