人間ドックや健康診断などの血液検査で、LDHの数値が高くて要経過観察などと書いてあったら驚きますよね。
今まで、気にしていなかった項目の数値が高くなっていると、「これは何なの?」と心配になると思います。
一体何の検査で、どんな病気が考えられるのか気になったりしませんか?
本日は、血液検査のLDHとは何なのか、そして考えられる病気などについて内科の先生に解説して頂きました。
LDHってなんの検査?
LDHの話をする前に、ブドウ糖という糖分は知っていますか?
私たちはブドウ糖と呼ばれる糖分をエネルギー源にして生活しています。
ブドウ糖しかエネルギー源にできないため、ブドウ糖以外のお砂糖や炭水化物、脂肪、たんぱく質などは酵素と呼ばれる物質のサポートによって全てブドウ糖にまで分解されて使われています。
LDHとは?
LDHは正式名称は乳酸脱水素酵素と呼ばれており、炭水化物などの大きな物質を、ブドウ糖という小さい物質に分解する際に必要になる酵素と呼ばれるものの仲間です。
LDHは特に以下の細胞に多く含まれています。
- 肝臓
- 腎臓
- 赤血球
- 筋肉(とくに心臓の筋肉と骨を支えている骨格筋)
*ここからは、ミカンの小さい粒々をイメージしてください。
実際にこれらの臓器や筋肉は(赤血球は例外です)細胞が何万も集まり大きな塊を作り働いています。
例:何万もの肝細胞→肝臓組織→肝臓
ふだんの細胞はミカンの粒々のように1つ1つがそれぞれ独立しているのですが、それが何かの原因により破れて細胞内にあるLDHが出てきてしまう場合があります。
この沁みだしたLDHの量を調べて、どこが悪いのか体の悪い部分を探すのに利用しているのがLDHの検査です。
- 健康な組織=LDHの量は少ない(しっかりと粒が揃っていて破れていない)
- ダメージを受けている臓器=LDHの量が多い(細胞の粒が破れてLDHでびしゃびしゃになっている)
LDHが基準値より高い場合の原因と病気とは?
LDHの基準値:180~240IU/ l
(参照データ:三菱化学メディエンス(株)臨床検査検査項目解説)
*検査方法により基準値が違うので注意してください
基準値より少し高くなっている上昇
- 慢性疾患(心不全、心筋障害、肝硬変、慢性肝炎、肝臓がん、慢性腎炎、ネフローゼ症候群など)
- 筋肉障害
- 自己免疫性疾患(膠原病など)
- 甲状腺機能低下
*注意
基準値よりも高いですが、そこまで急激に高くない場合には、上記のような病気の可能性があるだけで実際にはその臓器が悪くない人もたくさんいます。
- 例:患者Aさん
31歳のAさんは心配症です。
今回もLDHの検査について説明を受けた後、あまりの心配のため検査の日まであまり眠れずに過ごしてしまいました。
また検査の日までは毎日夜遅くまで水分も取らずに過ごしていました。
↓
検査の結果、LDHの上昇が見受けられました
↓
詳しく調べたところ、異常はなく心配や仕事の疲れと軽い脱水症状のためにLDHの値が高く出てしまっただけでした
- 例:患者Bさん
40歳のBさんはLDHの検査を受ける日を決めました。
ちょうどジムに入会したばかりなので検査を受けるにはいいだろうと思っていました。
検査の日までは毎日ジムに通い運動していました
↓
検査の結果LDHの上昇がみられました
↓
詳しく調べた結果、異状はなく健康でした。今まであまり運動をしていない人が急激な運動をするとLDHの数値が1週間前後上昇する場合があります。
これら2人の患者さんのように、急激な運動や一時的なストレスや脱水症状などでLDHが上昇してしまう人もいます。
そのため、検査の日まではゆったりとした気持ちで過ごし、あまり激しい運動やふだんしていないことなどは控えて検査に臨みましょう!
急激な上昇
- 急性疾患(心筋梗塞)
- 悪性リンパ腫
- 筋ジストロフィー
詳しく検査する方法は?
数値が高い場合、より詳しく検査する方法に、LDHアイソザイム血液検査と呼ばれている検査を行います。
この検査はLDHのアイソザイム(働きは同じなのに分子構造が違う)を使い調べる方法です。
LDHのアイソザイムは5種類あるのですが、それぞれのアイソザイムが多い臓器は違います。
その違いを使って異常がある臓器を特定します。
LDH1だけが高い | 心筋梗塞、溶血性貧血 |
LDH1とLDH2が高い | 腎塞栓、筋ジストロフィー、悪性腫瘍 |
LDH 3だけが高い | 大腸がん |
LDH2と3が高い | 肺塞栓、慢性骨髄性白血病、リンパ肉腫 |
LDH5だけが高い | 急性肝炎または肝臓がん まれに筋ジストロフィーの可能性もあります。 |
治療方法など
治療方法は、まず異常が出ている臓器に対して、本当に異常なのかどうかを調べることから始めます。
LDHといえども万能ではないため、風邪を引いていたり生理中や妊娠中などでは、正常であっても異常が出る可能性があるからです。
それでは、部位別の治療方法を見ていきましょう。
肝臓の検査
血液検査により、ALT・ASTという値を調べ数値に異常がないかどうかを確かめます
正常: ALT=0~35IU/l AST=5~40IU/l
ALTとASTは肝臓の細胞(肝細胞)に含まれている酵素であり、LDHと同じように肝臓に異常があり、肝機能が上手く働いていないと細胞からしみだし血液中に混じるようになります。
この酵素は心臓の細胞にも、多く含まれているため心筋梗塞の際にも血液の中に大量にしみだします。
- •血液検査によるコリンエステラーゼ(ChE)
この酵素はコリン化合物と言われる物質を分解します。この酵素も肝細胞の機能が悪くなると血液中にしみだします。
- 正常値:1,060~1,820 IU/l
- 血液検査による胆汁酸
全ての肝臓に関する病気で胆汁酸は上昇します。
- 腹腔鏡検査
- 肝生検査
その他に患者さんの症状などを合わせて総合的に診断されます。
心臓の検査
心臓の検査は時間の早さも関係してきますので、必要最小限の検査を迅速に行う必要があります。
- 問診
- 心電図
- 血液検査
心筋梗塞などは他の症状(左肩の痛みや、異常な発汗、痛みなど)も同時に出るようになるため、検査の結果が出次第すぐに入院し、治療を開始するようになります。
筋肉の検査
筋肉の検査はまず血液検査から始まります。その時に見るポイントは2つです。
アルドラーゼ(ALD)・CK(クレアチンキナーゼ=CPK)
アルドラーゼは血液ではなく、血清と呼ばれる血液から分かれた液体の中のアルドラーゼを計ることにより異常かどうかを調べます。
筋ジストロフィーや筋炎などや骨格筋などの大きな筋肉がダメージを受けるとアルドラーゼの値が非常に高くなります。
注意:激しい運動や筋肉注射などでも一時的にアルドラーゼの数値は上昇することがあるので、筋肉の異常を調べる場合には、問診がとても大切になってきます。
- 心電図検査
- 心臓超音波検査
- 冠動脈造営検査
- 筋電位図検査
筋肉の異常が疑われる場合には、心臓にも気を配らなくてはいけません。
心臓は心筋という筋肉の塊ですので、心筋梗塞や心不全などの可能性も考えて心臓の検査も一緒に行うことも多いです。
腎臓の検査
腎臓も異常がある場合にはすぐに検査を行い治療を開始しなければいけません。
腎臓は一回壊れてしまうと元には戻りませんので、腎臓の異常が何が原因で起きているのかが分かるまでは慎重に検査を行い、正しい治療が行えるようにします。
また、腎臓の血管や腎臓自体の血圧が高くなれば、直ぐに様態が急変するような深刻な臓器です。
- 血液検査:尿素窒素(BUN、UN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、クレアチニン・クリアランス(CCR)
基準値:尿素窒素(BUN、UN)8.0~20.0mg/㎗
クレアチニン(CRE) 男性0.65~1.09mg/dℓ 女性0.46~0.82mg/dℓ
eGFR値 90以上
尿酸(UA) 男性3.6~7.0mg/dℓ 女性2.7~7.0mg/dℓ
クレアチニン・クリアランス(CCR) 70~156mℓ/分(酵素法)
尿素窒素(にょうそちっそ)、クレアチニン、尿酸は、体内でタンパク質が分解されて必要なエネルギーを取り出した後に残る物質です。
これらの血液に含まれている量を検査し、腎臓が正常に働いているかどうか診断します。
注意:尿酸値は更年期以降の女性でも高くなる傾向がありますし(女性ホルモンの低下のため)、脱水症状でもこれらの値は高くなる場合がありますので、総合的な判断が必要になってきます。
最後に
LDHの値の上昇は様々な異常を示しますが、早めに発見し治療を行えば心配するような深刻な状態にならずまた健康な状態に戻れます。
<ライター経歴プロフィール>増田陽子
カリブ海で内科医師をしています。最新機器がない島で最低限の技術で工夫して患者さんを診察しています。日本の医療技術は先進国の中でも高い技術を誇っていますので、その技術の恩恵を利用しない手はありません!不安になったら心配せずに、どんどん病院へ行きましょう!
「関連記事」