血液検査をした時に、ALP(アルカリフォスファターゼ)の数値が高くなった場合、気になりますよね。
お子さんや妊婦さんなどでも、高い数値が出ていると心配になったり・・。
今の病気が悪くなっているのか?何か他に病気にかかっているのか?など、考えてしまう事もあると思います。
本日は、血液検査をした時にALPの数値が高い時の原因について、循環器内科医の鷲尾先生に解説して頂きました。
血液検査のALP高値について
まずは、ALPについてお話いたします。
1)ALP検査について
ALP(アルカリホスファターゼ)は、体内にありアルカリ性の環境下で、リン酸化合物を加水分解する働きをもつ酵素(タンパク質の一つ)です。
難しくお話ししましたが、簡単に言うとエネルギー代謝に関わっているタンパク質(酵素)です。
ほとんどの臓器に存在しますが、その中でも肝臓、骨、小腸、胎盤等に多く存在します。これらの臓器が障害を受けると、血液中にALPが多量に流出しその結果、血液検査で高値と表現されます。
前述したようにALPは血液検査で調べますが、その検査方法(測定の仕方)は、いくつかあります。
P-NP法や4-NPP基質法では、単位はIU(国際単位)を使用しています。その他の検査法としては、キンド・キング法(KAU)、ベッシー・、ローリー法(BLU)等があります。
基準値 | |
---|---|
P-NP法 | 58~200IU/L |
4-NPP基質法 | 80~260IU/L |
キンド・キング法(KAU) | 3.0~10.0KAU |
ベッシー・ローリー法(BLU) | 0.8~2.9BLU |
(ほかにも検査方法はあるため、基準値は目安です。検査実施会社の提供している基準値をご確認ください。)
なぜ、検診や一般的血液検査としてALP検査を行うかというと、自覚症状が出る前からALPの高値を示すことも多くあり、それにより早期発見・治療につながることも多いからです。
また、他の検査値と合わせることで早期診断の手助けになることもあります。
では、ALPの数値が基準値より高い場合の原因や病気について見てみましょう。
ALPが基準値より高い場合の原因と考えられる病気は?
血液検査で基準値を超えALP高値となっている場合、前述に記したように体の中の臓器のうち、どれかが障害を受けている可能性があると考えます。
血中ALP高値の場合でよく見かけるのは、肝臓・胆道系の臓器障害、骨疾患です。
例えば、胆石や腫瘍などで胆汁の流れが悪くなる(閉塞性黄疸)と、胆汁中のALPが血中に漏れ出てalpが上昇します。
また、骨折や骨粗しょう症、ガンの骨転移では骨の破壊が進みalpは上昇します。
その他では、首のところにある臓器の病気である甲状腺の機能亢進症や、その甲状腺のそばにあり骨代謝に関与している小さな臓器の病気である副甲状腺機能亢進症においてもALPは上昇します。
ALP値と病気一覧(ALP測定法により基準が異なり目安として下さい)
ALP値 (IU/L) | 考慮すべき疾患 (一部健常においてもあり) |
80以下 | 遺伝性低ALP血症 甲状腺機能低下症 栄養失調 (問題のない場合も多い) |
80~260 | 正常値 |
260~600 (経度~中等度の上昇) | (よく見られる病気) 閉塞性黄疸(総胆管結石 胆のう癌 膵頭部癌 ファーター乳頭癌) 肝占拠性病変(転移性肝癌等)肝内胆汁うっ滞 胆道感染 薬物性肝障害 アルコール性肝障害 脂肪肝 うっ血肝 急性肝炎 慢性肝炎 肝硬変 肝細胞癌(進行例) 悪性腫瘍 甲状腺機能亢進症 |
(少ないが可能性のある病気) 悪性リンパ腫 白血病の浸潤 サルコイドーシス 粟粒結核 骨疾患(副甲状腺機能亢進症 くる病 骨肉腫等) 潰瘍性大腸炎 慢性腎不全 |
|
生理的上昇(健常者でも高値を示すもの)として 子供の成長期 妊婦 血液型がOまたはB型の分泌型 等 |
|
600以上 (高度の上昇) | (よく見られる病気) 閉塞性黄疸(総胆管結石 胆のう癌 膵頭部癌 ファーター乳頭癌) 肝占拠性病変(転移性肝癌等)肝内胆汁うっ滞 骨疾患(転移性骨腫瘍) |
(少ないが可能性のある病気) 悪性リンパ腫 白血病の浸潤 サルコイドーシス 粟粒結核 骨疾患(副甲状腺機能亢進症 くる病 骨肉腫等) |
alp高値は、いろいろな病気を考える必要がありますが、病気ではない場合もあります。
例えば、正常妊婦さんもALPは上昇し、妊娠後期にはALPは基準の2~3倍にもなります。
また、お子さんの場合も成長しており、骨代謝が活発なため妊婦と同じく2~3倍の高値に出ます。
子供の血中ALP値の基準値の目安(IU/L) | |
---|---|
0か月 | 530~1610 |
6か月 | 420~1580 |
1歳 | 395~1339 |
6歳 | 440~1230 |
12歳 | 455~1500 |
15歳 | 270~1200 |
20歳 | 150~410 |
血液検査でALPの異常値があった時の精密検査について
血液検査で基準値を超えALP高値となっている場合、前述に記したようにいくつかある臓器のうち、どの臓器がダメージを受けてalp高値となっているか知る必要があります。
そこで、 ALPをさらに詳しく調べるために、ALPアイソザイムという検査があります。これによって更に、どの臓器由来のALPが血液中のALPを高値にさせているか分かります。
ALPアイソザイムの検査で、6種類のALP(ALP1~ALP6)に分けることができます。
ALP 1・ALP 2が肝臓、ALP 3が骨、ALP4が胎盤、ALP 5が小腸、ALP 6が免疫グロブリン結合型を表しており、それらのどのALPが高いかで病気が予測されます。
以下の表に予測される病気(一部病気ではないです)をまとめていますので、ご参考にして下さい。
ALP1 | 閉塞性黄疸 限局性肝障害 等 |
ALP2 | 各種肝疾患 胆道系疾患 等 |
ALP3 | 骨の病気 副甲状腺機能亢進症 等 |
ALP4 | 悪性腫瘍の一部 妊娠後期 等 |
ALP5 | 肝硬変 慢性肝炎 慢性腎不全 等 |
ALP6 | 潰瘍性大腸炎 等 |
これらのアイソザイム検査結果に加え、その他の検査結果、自覚症状、診察の所見等を合わせ、どのような病気であるか予測し、さらに腹部CTやレントゲン検査、エコー検査などの検査を進めていきます。
例えば、健康診断での血液検査でalp高値と軽度の肝機能(ALT(GPT)、 AST(GOT))の上昇を認めた場合、肝臓及び胆道系のどこかに異常があるもしくは、甲状腺機能亢進症かもしれない等を推測できます。
そこで、更に確定診断をするために、ALPアイソザイムの測定や甲状腺ホルモンの測定、腫瘍マーカーの測定等を血液検査で行い、腹部CTや腹部エコー等の画像診断を行います。
もちろん、診察の所見も重要です。
それらを行うことによって、確定診断を行うのです。ALPアイソザイムでALP 1、2の上昇と、画像診断で胆石症や胆道癌が認められれば、確定診断となり治療へと結びつきます。
また、検診でalp高値のみの上昇であれば、骨肉腫や前立腺癌や乳癌、肺癌などの悪性腫瘍の骨転移や副甲状腺の病気等が推測されます。
更に、血液検査で副甲状腺ホルモンや腫瘍マーカー等を血液検査で調べ、MRIやCT、レントゲン等の画像診断を行い、それらの結果を併せて、確定診断をしていきます。
ところが、検診でALP高値等の異常数値を指摘されても、自覚症状がないと、それ以上検査をしないで放置される方がいます。
医師の立場からすれば、せっかく大切な時間を割き、血液検査等の不快な思いをして得た大切な検査結果ですので、きっちり検査を受けて頂きたいのです。
そうすることで、病気の早期発見につながり、早期治療が可能になります。
早期治療を受けることができると、癌など放置すると重篤になる病気でも完治し得ることもあり、また治療期間が短く治療内容も軽いものになるので、ご自身への治療の負担が減ることになります。
是非、異常値がでた場合は再検査・精密検査を受けて頂きたいと思っています。
ALPが高い時の治療法は?
血中ALPの異常値が、体に悪影響を及ぼすことはあまりないと考えます。
どちらかというと、血中ALPの数値を下げる(または上げる)治療をするのではなく、血中ALPの数値異常の原因を見つけ、治療するべきと言った方が良いかと考えます。
ALP上昇の原因は様々であるため、治療についてもそれぞれ違ってきます。原因となる病気の治療を行うことで、ALP値を正常値にもっていくことになるでしょう。
血中ALP値は、病気を見つけるための一つの指標であり、これによって病気を発見し治療を行っていくことが、大切なことになります。
例えば、閉塞性黄疸によるALP高値であるならば、まず閉塞性黄疸になった原因の病気の一つである胆のう癌だったとします。胆のう癌の転移の有無などの評価を行い、ステージ分類(進行の程度を表します)し、そのステージにあった胆のう癌の治療を行います。
手術ができる状態であるならば、手術で胆のう癌を取り除き、抗がん剤の治療なども行います。これにより、胆道からの胆汁排泄がスムーズに進むような状態となり、閉塞性黄疸が改善されれば、ALPも正常範囲になってきます。
このように、ALPを下げるために治療をするのではなく、 ALPを上昇させている原因の胆のう癌の治療を行うのです。
最後に
血中ALPは、エネルギー代謝に関わる酵素であり、あらゆる臓器に存在するが、特に肝臓、骨、胎盤、小腸に存在しています。
それらの臓器に障害が起こることで、血中alpは高値になります。
ALP高値の場合、ALPアイソザイム検査や画像検査等の精密検査を受けることで、ALP高値にしている病気を発見することができ、それに対しての治療が行えます。
ALPは病気を発見と治療をするための検査の一つであり、その病気の中には重篤なものもあります。
早期発見・治療を行うために、自覚症状がなくとも再検査・精密検査を受けることをお勧めします。
20年程、循環器内科、総合診療科医として日本で勤務医として働かせて頂き、また海外の医療搬送のお仕事もさせて頂いております。そのため、日本国内だけでなく海外の医療現場にも関わり、沢山のことをさせて頂いています。現在、主人の仕事の関係で海外に拠点を置いておりますが、日本と行ったり来たりで医療に携わっております。また、産業医としてのお仕事をさせて頂き、検診や外来診察もさせて頂いた経験から、検診の重要性を感じております。
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